この座談会集は、厚生労働省の研究班「肝炎ウイルス感染者の偏見や差別による被害防止への効果的な手法の確立に関する研究」の3年間の研究のまとめです。主任研究者は、長崎医療センター副院長の八橋弘先生です。
平成21年に制定された「肝炎対策基本法」に基づいて作られた「肝炎対策の推進に関する基本的な指針」の中の第8項(2)に「肝炎患者等に対する偏見や差別の被害の防止」の項目があります。これを実行する為の一つとして作られた研究班です。
この研究班は、2011年からの龍岡資晃先生の研究班(※)を引き継いで立ち上がりました。
座談会集の主な内容ですが、(1)患者のアンケートによる偏見差別の頻度の集計(年齢や性別、カテゴリー別の分析)、(2)全国各地での公開シンポジウムの紹介(偏見差別の具体的事例を紹介しながらの公開討論会)、(3)感染症に関する意識調査の集計(医療従事者対象)(4)研究分担者による座談会(具体的な事例をもとに、「偏見差別のない社会にするには」と言うテーマでの討論会)になっています。
例えば、相談事例で一番多いのは、「歯科通院での嫌な思い」です。B型肝炎の方もC型肝炎の方も共通の悩みです。C型肝炎は、ウイルス排除が可能になりましたが、ウイルス排除後も歯科医院で嫌な思いをされる方が少なくありません。また、B型肝炎の方で何軒も診療を断られたと言う話もよく聞くところです。自分が肝炎患者であることをカミングアウトした為におきる差別は、あってはならないと思います。歯科には、カミングアウトされていない肝炎患者や他の感染症患者も来られるはずです。どの患者が来院しても感染することがないように、標準予防策が徹底されているべきです。しかし現実は、標準予防策が徹底した歯科医院ばかりではありません。私たちの座談会の中では、「問診票での病歴で、カミングアウトする必要はない。」と言う患者側の意見と「他の疾病がある場合、医者は知っておきたい」と言う医者の意見に分かれました。「どこの歯科に行けば、きちんと診てもらえるか?」という相談には、「歯科に行って、そこで嫌な思いをしない為に、また、標準予防策が徹底しているかを知る目安として、予め電話をして、肝炎患者を診てくれるかどうか聞くことが良いのではないか」と言うのが患者委員の意見です。
肝炎患者への偏見差別の第一の原因は、正しい知識の不足が挙げられます。研究班では、病院での偏見差別が多いことに対して、医療従事者への感染知識のアンケートの集計と共に、その後の正しい知識の解説集も配布しました。配布された病院の医療従事者以外への啓発と世間一般の方への啓発をどのように行えばいいのか、これからの課題です。
研究班は、今後3年間「ソーシャルメディア等を活用した肝炎ウイルス感染者の偏見・差別の解消を目指した研究」(R2年~4年度八橋弘先生)という課題で継続されます。
私は、研究班で3年間勉強させていただき、一人で悩んでいるウイルス性肝炎患者が多いことに改めて気付かされました。今後も、患者のデリケートな心を伝えていきたいと思います。
※「肝炎ウイルス感染者に対する偏見や差別の実態を把握し、その被害の防止のためのガイドラインを作成するための研究」