2021年度の定期協議(厚生労働大臣が出席する協議なので、私たちは「大臣協議」と呼んでいます。)についてご報告いたします。
2021年7月29日、厚生労働省内で開催されました。厚労省からは田村憲久厚生労働大臣以下、事務局が出席し、我々薬害肝炎全国原告団弁護団と向き合いました。田村大臣とは、2013年・2014年に引き続き、3度目の大臣協議となりました。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、昨年度同様、協議参加者は大幅に減少させざるを得ませんでした。もっとも、協議会場にはモニタ・カメラ・スピーカを設置し、協議で発言する原告はもちろん、協議で発言しない原告も、自宅等からウェブ会議ツールを利用して参加しました。
まず、全国原告団の及川副代表が、始めの挨拶を述べました。
3つの課題が未だ解決されていないことを説明した上で、「国の行政の責任者としてリーダーシップを発揮してください。そして、問題解決に向けて前進するよう、決断力を示してください。これが私たち原告団からの心からの願いです。本日の協議が実りあるものになりますよう、田村大臣の姿勢と回答内容に期待しております」と、大臣協議に向けた思いを伝えました。
以下、担当者から各テーマについて報告します(東京弁護団 晴柀雄太)。
2021年度大臣協議において、個別救済では、次の2点を大きなテーマとしました。
病院調査が進んでいない問題については、冒頭に、名古屋原告163番さんが、要旨以下の意見陳述を行いました。
「出産時にフィブリノゲン製剤を投与され、長い闘病生活を送りました。出産した診療所に問い合わせたところ、カルテが残っていたので、私は救済法の適用を受けることができました。しかし、この診療所は、問い合わせがあれば対応するが、人手や費用がないため、カルテ全てを調査することはできず、その後廃院となってしまいました。何本もフィブリノゲン製剤が納入されていて、他にも被害者がいるはずです。国の責任で被害が起きたのに、被害者が自分で問い合わせをしたかどうかで、被害の救済が左右されることになってしまいます。大臣のお膝元の三重県でもこのような状態です。厚生労働省の職員が先頭に立って、医療機関のカルテ調査を速やかに完了できるよう、大臣から職員に強く指示を出すことを、約束してください。」
これに対し、大臣からは、厚労省の目標である令和4年1月までに投与判明者に対する告知を完了できるように最大限努力を行っているが、場合によっては厚労省から出向いてカルテを調べることまでしないとならないこと、速度を進めて対応しなければならないとの回答がありました。
そして、本年度で終了予定の、廃止医療機関に対する厚労省によるカルテ調査を来年度以降も継続すべきことを求めたところ、大臣からは、連絡をどうするかも含め、どういう方法があるか検討するとの回答がありました。
また、カルテ等の確認作業が進んでいない又は住民票調査を行っていない個別の医療機関の例を挙げて、今後の具体的な対応・方策について質問したところ、大臣からは、個別の医療機関については具体的に調べて対応を考えること、医療機関からのカルテ調査の委託や住民票調査などを進めてくとの回答がありました。
さらに、被害者が未救済のまま救済法の請求期限(令和5年1月)が来てしまう場合、救済法を改正して請求期限を延長すべきことを求めたところ、大臣からは、救済法は議員立法なので閣法での改正は難しいが、もし大臣を降りたとしても、議員である限りは最大限仲間の議員に皆様の思いを伝えて、解決に向けて努力していきたいとの回答がありました
病院調査の問題については、廃止医療機関に対する調査は検討するとの回答がありましたが、残念ながら、今後の対応・方策についての具体的な説明は得られませんでした。救済法の改正(請求期限の延長)については、閣法での改正は難しいとの回答でしたが、大臣において、来年の通常国会で救済法を改正しなければならないとの認識を持ってもらい、一議員として最大限努力するとの回答を得ることができました。
病院調査が進んでおらず、約1万人の投与判明者に未告知ということは、マスコミも関心を有しており、大臣協議後の厚生労働記者クラブでの会見は、NHKニュースでも報道されました。
NHKニュースより引用
非特定製剤とは、救済法で救済対象となっている、フィブリノゲン製剤等の特定の血液製剤以外の製剤のことで、現状、非特定製剤による肝炎感染被害は救済の対象となっていません。
平成26年度の大臣協議でも非特定製剤問題の要望を行い、当時の田村大臣が、弁護団が保有する非特定製剤被害の2症例を含めて調査すると約束していたにもかかわらず、その後2症例について調査が行われていないことを指摘し、改めて調査を求めました。これに対し、大臣からは、意思疎通をして必要な情報を頂いたうえで、さらに調査を進めたいとの回答がありました。
2症例については、今後、確認して改めて調査を行うことの確認がとれましたが、2症例以外の非特定製剤問題への対応は、未だ不十分であり今後の課題です(東京弁護団 伊藤知憲)。
原告に被害をもたらしたフィブリノゲン製剤ですが、現在は、産科出血等の後天性疾患には適応がなく、遺伝疾患で先天的にフィブリノゲンが体内に作られない患者さんにだけ使用されています。
ところが、産科学会等、複数の学会から、フィブリノゲン製剤を以前のように後天性疾患に使えるようにしてほしいという要望が出されています。
これを受けて、厚生労働省の設置する「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(検討会議)で検討が進められていました。その目的は、時間とお金のかかる治験を省略して、書面審査による承認を認めさせることにあります(公知申請)。
今回の大臣協議では、この点について、仮に検討会議で公知申請を認める意見が出ても、厚生労働省としてほかの医薬品と変わりなく厳しく審査することを求めました。
これに対して、大臣からは、適正使用のためのガイドライン整備などに努めるという回答がありました。
この大臣協議の後、実際に検討会議は、公知申請で良いというとりまとめをしています。
ただ、後天性疾患に対する有効性については、治験によるエビデンスが極めて乏しいことが問題です。
私たちとしては、引き続き厚生労働省に対し、エビデンスが極めて乏しい医薬品を安易に承認しないことを求めていくことになります。
薬害研究資料館は、薬害被害の資料があっての存在です。そして、その中でも被害者の保有する資料は最重要の資料と考えられます。ところが、薬害被害者の高齢化に伴って、貴重な資料が散逸する危機に見舞われています。
そこで、資料収集を急ぐべきという点について、大臣に問いただしました。
大臣からは、各団体の意見を聞きながら、資料の収集、保存、管理、活用を進めていきたいという回答がありました。また、資料収集のルールづくりも含めて、なるべく早くにつくっていきたいという前向きの発言がありました。
さらに、研究班に早急に十分な研究結果を出していただけるように、厚生労働省として最大限の支援をするという決意を問いただしたのに対し、医薬・生活衛生局長からは、研究班を支援し、連携して、検討・作業を進めたいという回答がありました。
この問題は、なかなか具体的な進捗が見えないことから、私たちとしても難渋しています。
今年度から新たな研究者も研究班に加わっており、なるべく早い時期に具体的なロードマップがみえるよう、引き続き厚生労働省に要請を進めていきたいと考えています(大阪弁護団 田辺保雄)。
「偏見差別の解消」については、これまでも要求項目には入れてきましたが、厚労省の回答は、「正しい知識の普及啓発に努める」という範囲にとどまっていました。
新型コロナ感染症の偏見差別問題が取りざたされる中、ウイルス性肝炎患者を含む感染症患者に対する偏見差別は今も根深く、抜本的な解決の必要性も新型コロナ感染症と共通することから、今回初めて大臣協議の場で「偏見差別の解消」について以下の3点を要求することにしました。
厚労省事務方からは、他省庁との連携については慎重な回答がなされて、縦割り行政の制約による限界を感じていましたが、田村大臣からは、感染症に対する偏見差別問題に積極的に取り組みたいという意志がくみ取れました。
大臣がおっしゃった、正しい知識の普及だけではなく、感染症患者に接したときの振る舞いについて考えることが大事だという言葉は、人権尊重の精神が大切だという考えの表れだと思います。
また、文科省との連携の必要性についても伺えたので、今後どのように他省庁との協議・連携を進めていけるのか注目したいです。
この問題は省庁を超えて、長期的に継続して取り組む問題であるため、私たち原告団と厚労省の間で継続的な協議の場が必要であり、私たちはそのことも要求しました。
しかし、厚労省の回答は、現在改定作業を進めている肝炎対策基本指針に先立って私たちの意見を聞くというもので、継続的な協議を想定する私たちの求めた協議とは違いました。
肝炎対策基本指針改定の為だけではなく、長期的で継続的な協議の場を設けてもらうように、厚労省と連絡を取り、引き続き要求していく必要があると思います。
(東京原告団代表 及川綾子)